はじめに

前回の記事(4-1)では、GHGプロトコルの主要な基準が約20年ぶりに改訂される背景と、現在議論されている主要な論点について解説しました。

第4章:GHGプロトコルの最新動向と未来

4-1:なぜGHGプロトコルが改訂されるのか?現在進められている基準改訂の概要


この基準改訂は、企業の温室効果ガス(GHG)排出量算定・報告の実務に大きな影響を与える可能性があります。

本記事では、新しい基準が導入された場合に、企業のGHG排出量算定にどのような変更が求められる可能性があるのかを考察します。

特に、再生可能エネルギー電力の調達方法の評価が変わる可能性などを具体的に解説し、企業が今から準備すべきことについて示唆を提供します。

基準改訂がGHG排出量算定実務に与える主な影響

GHGプロトコルの基準改訂は、企業のGHG排出量算定のプロセス、結果、そして開示方法に多岐にわたる影響を及ぼすことが予想されます。

1. Scope2算定方法の変更と再生可能エネルギー調達への影響

GHGプロトコル改訂における最も注目される論点の一つが、Scope2排出量(購入電力など)の算定方法の見直しです。

特に、再生可能エネルギー(再エネ)電力の調達方法が、企業の排出量にどのように反映されるかについて、より厳格な評価が導入される可能性があります。

影響を受ける可能性のある項目 変更の可能性と影響
マーケット基準の厳格化 現在、多くの企業が再エネ証書や電力購入契約(PPA)を通じてScope2排出量を削減していますが、これらの調達方法に対する「追加性」や「時間的・地理的整合性」の要件が強化される可能性があります。これにより、単に証書を購入するだけでは排出削減効果が認められにくくなるかもしれません。
ロケーション基準の役割 ロケーション基準(電力系統全体の平均排出係数)の重要性が再評価され、マーケット基準と併せてより詳細な開示が求められる可能性があります。企業は、自社の再エネ調達が電力系統全体の脱炭素化にどの程度貢献しているかをより明確に示す必要が出てくるかもしれません。
データ収集の高度化 再エネ電力の調達に関するより詳細な契約情報や、発電所の所在地、発電時間帯などのデータ収集が求められる可能性があります。

これらの変更は、再エネ調達を通じてScope2排出量削減を進めてきた企業にとって、算定結果に影響を与えるだけでなく、今後の再エネ調達戦略の見直しを迫る可能性があります。

2. 土地利用、炭素除去、バイオジェニック排出の算定への組み込み

これまでGHGプロトコルの企業基準で十分にカバーされていなかった、土地利用・土地利用変化・林業(LULUCF)関連の排出・吸収、炭素除去、バイオジェニック排出についても、新たなガイダンスが導入される見込みです。

影響を受ける可能性のある項目 変更の可能性と影響
LULUCF関連排出・吸収 農業、林業、食品産業など、土地利用に大きく関わる企業は、自社の事業活動に伴う土地利用の変化によるGHG排出・吸収を算定対象に含める必要が出てくる可能性があります。これにより、新たなデータ収集や算定方法の導入が求められます。
炭素除去の計上方法 大気中のCO2を直接除去する技術(DAC)や植林などによる炭素除去活動を、企業のGHGインベントリにどのように計上するか、そのルールが明確化される可能性があります。これにより、排出削減目標の達成状況評価に影響を与える可能性があります。
バイオジェニック排出 バイオマス燃料の使用に伴う排出の取り扱いがより明確化され、特定の条件下での「カーボンニュートラル」の解釈が見直される可能性があります。

これらの変更は、関連する事業を行う企業にとって、算定範囲の拡大や新たな算定方法の導入を意味し、排出量インベントリの再構築が必要となる場合があります。

3. Scope3算定の精緻化とデータ要件の強化

Scope3排出量(サプライチェーン全体のその他の間接排出)についても、既存の15カテゴリの定義の明確化や、算定方法の精緻化、データ品質に関する要件の強化が議論されています。

カテゴリ定義の明確化:各カテゴリの解釈の曖昧さが解消され、より一貫性のある算定が可能になる一方で、これまで算定対象外としていた排出源が新たに含められる可能性もあります。

データ品質の向上:サプライヤーからのデータ収集において、より詳細で信頼性の高い一次データが求められるようになる可能性があります。これにより、サプライヤーエンゲージメントの強化や、データ管理システムの高度化が不可欠となります。

推計方法のガイダンス:データが不足している場合の推計方法についても、より具体的なガイダンスが提供されることで、算定結果の信頼性が向上する一方で、推計の根拠や透明性に関する要求も高まるでしょう。

Scope3は企業の総排出量の大部分を占めることが多いため、これらの変更は企業の脱炭素戦略全体に大きな影響を与える可能性があります。

企業に求められる対応

GHGプロトコル基準改訂の動きは、企業にとって以下の対応を求めることになります。

1. 最新動向の継続的な把握:GHGプロトコルが公表するパブリックコメントやガイダンスの更新情報を常に確認し、自社への影響を早期に評価することが重要です。

2. 社内体制の準備新しい基準に対応できるよう、GHG排出量算定・報告を担当する部署や担当者の知識・スキルを向上させる必要があります。また、データ収集体制や算定システムの改修も視野に入れるべきです。

3. サプライヤーとの連携強化:Scope3算定の変更に対応するため、サプライヤーとのコミュニケーションを強化し、データ提供の協力体制を構築することが不可欠です。

4. シナリオ分析の実施:新しい基準が導入された場合の自社の排出量への影響を事前にシミュレーションし、排出削減目標や戦略の見直しが必要かを検討します。

まとめ

GHGプロトコルの基準改訂は、企業のGHG排出量算定実務に広範な影響を与える可能性があります。

特に、Scope2の算定方法の見直しは再生可能エネルギー調達の評価に影響を与え、土地利用、炭素除去、バイオジェニック排出の新たな組み込みは算定範囲の拡大を意味します。

また、Scope3算定の精緻化は、データ収集とサプライヤー連携の強化を求めるでしょう。企業は、これらの最新動向を継続的に把握し、社内体制の準備、サプライヤーとの連携強化、シナリオ分析の実施を通じて、来るべき変更に備えることが不可欠です。

これにより、企業は変化する環境下でも信頼性の高い情報開示を継続し、持続可能な経営を実現できるでしょう。


今回は基準改訂が企業の算定実務に与える影響について解説しました。

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参考資料

GHG Protocol. Standards & Guidance.
https://ghgprotocol.org/standards-guidance

GHG Protocol. Corporate Standard.
https://ghgprotocol.org/corporate-standard

GHG Protocol. The Greenhouse Gas Protocol: A Corporate Accounting and Reporting Standard (Revised Edition).
https://ghgprotocol.org/sites/default/files/standards/ghg-protocol-revised.pdf

GHG Protocol. Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard.
https://ghgprotocol.org/standards/scope-3-standard